ボディメカニクスを理解する

看護の仕事は患者さんを相手に行うことがほとんどです。そのため、人体の運動機能を知っておかなければなりません。こうしたボディメカニクスの理解は、通常の看護だけでなく介護を必要とする患者さんの看護にあたる場合にもとても役立ちます。

体を満足に動かせない患者さんの看護を行う場合、持ち上げたり支えたりなどの作業が必要になりますが、動くことのできない人を動かすという作業は想像以上に大変な仕事です。こうした負担を軽減させることは、患者さんへのストレスを軽減させ、看護師の看護負担やリスクも低減させることができます。より良い看護を行うためには必須の知識ではないでしょうか。

座学的な講義における力学の場合、重要なのは力の大きさになります。しかし、ボディメカニクスを理解しつつ看護の実践に必要な力学を身につけるには力の方向も考えなければなりません。例えば、車いすで移動しなければならない患者さんを移動させることを考えてみましょう。介助者である看護師は取っ手に手をかけて車いすを押しますね。この時、押す力が最も作用するのは取っ手の部分です。そこから、力が作用する方向、つまり進行方向にむかって働く力をベクトルと呼びますが、このベクトルを決定するのは力の大きさ、方向性、そして作用点なのです。
こうした基礎的な力学の知識をまずは頭に入れて、仰臥位から側臥位に患者さんの体位を変える場合を考えてみましょう。そうすると、実はこの作業はテコの原理が働いているということがわかると思います。

こうした知識を体系的に身につけるのは、看護師として働いている最中にはなかなか難しいかもしれません。そこで、普段の自分の体の動かし方やちょっとした動作について少しで良いので集中して考えてみると良いかもしれません。例えばドアを開ける時です。ドアノブを回す場合、どちらの手でどちらの方向に回すのでしょうか。そして、どれくらいの力でどの方向に押す、あるいは引くと最も効率良くドアを開くことができるでしょうか。

一見すると何気ない日常の所作も、力のモーメントやベクトルを考えながらやってみると案外複雑であることが分かると思います。そして、患者さんはそうした普通の所作が何らかの理由でできない状態にあるのです。そうした患者さんに対してより良い看護を行うための看護技術の習得のためには、こうした力学的な考え方が重要であることが分かるはずです。無意識にやっている動作について、普段から少しずつでも考えてみましょう。